「メーカー様」
被害者の持ち主は最後の頼み、とばかりに縋りついた。
彼を生き返らせてください、と。
しかし彼女は世の中の仕組みに落胆することになる。
『生き返らせたければ、16万円お支払いあそばせ』
提示された見積書の途方もない金額に、泣く泣く倍男を部屋の片隅に安置した。
貧乏が憎かった。
かくして、倍男は僅か10か月の短いパソコン生をはかなく終えた。
…季節は夏を迎える。
「ショートして電源が入らないだけで、
もしかしたらハードディスクは生きているかもしれない」
ある日、友人はそう告げた。
まさか。もう倍男のことは諦めました。もうわたしには富士子がいます。
うっそりと笑う彼女のかたわらには、最新モデルの富士子がいた。
彼女は保険金を使って、富士子を手に入れたばかりだった。
倍男は部屋の隅でうっすらと埃を被っている。
XPの時代は終わったのです――
彼女は一笑に付したが、内心の動揺を隠せなかった。
倍男が生きている?
彼女は震える指で、富士子に検索をかける。
"ハードディスク" "取り出す"
そしてついに、HDDケースというものの存在を知ったのだった。
HDDケースとは何者か?
倍男の運命やいかに!?
次回、『バイオ殺人事件3 HDDは突然に』
一服 < パラダイス・ダイバー