バイオ殺人事件



事件は昨年末、クリスマスの頃に起こった。

被害者の倍男氏はマグカップを落とされた上、
粉末ミルク入り珈琲を浴びて死亡。

その後必死の救命活動をするも、一度も息を吹き返すことはなかった。
倍男氏はダンボールに包まれ、ひっそりと搬送される。


ここに、容疑者の証言を記す。

「そんなつもりじゃ、なかったんです」

事故でした――
すっかり憔悴した様子の容疑者は、力なくそう言った。

「何が起きたのか、わかりませんでした。
 ただ、倍男の顔は、その瞬間、真っ黒になりました」

カップを落としたと同時に、電源が切れたようだった、と続けた。

「自分のしてしまったことに気がついて、わたしは慌てました。
 すぐに拭いてさかさまにし、コーヒーを吐かせて数日間干したけれど、
 倍男は…もう…」

彼女は顔を覆った。嘘泣きだろうか。
か細い声は、かろうじてこう、聞き取れた――

疲れていて、満杯のコーヒー入りのカップを支える力が、
指先に残っていなかったんです…と。


次回、『バイオ殺人事件2 富士子』

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