バイオ殺人事件



８月も終わりを迎える頃、彼女は勝者の笑みを湛えていた。
彼女の腕には富士子がいた。
そして、富士子に繋がれた、手のひら大の薄い金属の箱…

彼女は箱を撫でた。
「倍男はここにいます」


彼女の日記より、ここに抜粋する。


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ついに手に入れた。
長かった、実に半年…

色々迷った結果、ＦＭＶの富士子にした。
ｖａｉｏと迷ったのだけれど、
コーヒーまみれで倒れた倍男とあまりに似ていたので、
ジンクスを断ち切る意味でやめた。

それにしても、お陰様でかなり値引きして買えました。皆様にお礼を。

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Ｖｉｓｔａは面白い。我慢して待って良かった。
でも色々なソフトがまだ未対応、これからに期待。

ＦｉｒｅＦｏｘ２が、ＩＥなら問題なく見られるところで強制終了する…
何度入れ直しても、リセットし直してもあいつはダメ。
検索しても同じ症状の対応が出ていないし、わたしだけか！？倍男の呪いか？

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この子を買おうかどうしようか最後まで迷った理由。
キーボードカバーが無い。

どんなに良くても、カバーの無いＰＣなんて、むしろいらない。
そんなこと言ったばっかりに。
これも倍男の呪いか。富士子に、おまえもコーヒー被れとでも言いたいのか。

仕方なく、同じＦＭＶのひとまわり小さいカバーを買って勝負に出た。
キーピッチも配置も全部同じなので、ピッタリはまりますよっほほ〜!!
わたくしの勝ちです。

ただ富士子はワイドなので、カバーの端の長さが少しが足りない。
折り目がついているので、馴染むように紙テープで貼り付けてみた。

これでわたくしの富士子は安泰です。
ごめん、倍男、コーヒーなんかこぼしたばっかりに…
富士子にはそんなことしないよ！ (そんな名前つけてないけどね)

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これらの日記が証拠となり、彼女は倍男氏殺害の犯人と確定された。
しかし、事件からすでに８か月が経過し、そして倍男氏は生きている。

コーヒーで殺害し、ドライバー１本で倍男氏をバラバラにした犯人は、
救命成功により、逆に知人から祝辞を述べられるようになった。
倍男氏は命を救った彼女に今も尽くしている。

「わたくしの勝ちです」
彼女は笑みを浮かべた。

かくしてバイオ殺人事件は幕を閉じる。

富士子と、倍男をつれて――
「倍男はここにいて、今もわたくしの、富士子のデータを支え続けてくれていますから」

終


解説『バイオ殺人事件』に寄せて



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